へヴィな音楽が好きな人の中には「ダウンチューニング」という言葉を耳にしたことがある人も多いと思います。
ダウンチューニングは通常よりも音域が低く、メタル、ハードロック、パンクで求められる「重厚感」や「ダークさ」を表現しやすいチューニングです。元々はそうした激しい音楽から生まれたチューニングですが、現在ではポップスやロックでもよく使用されています。
この記事ではダウンチューニングについて基礎から解説していきます。
ダウンチューニングってどんなチューニング?
一般的なレギュラーチューニングは6弦から
E A D G B E
となっていますが、ダウンチューニングはこのレギュラーチューニングよりも低い音で構成される変則的なチューニング全般のことを指します。
ダウンチューニングの種類
ダウンチューニングには、「ローダウン(全弦下げ)チューニング」と「ドロップチューニング」があります。
ローダウン(全弦下げ)チューニング
6弦 | 5弦 | 4弦 | 3弦 | 2弦 | 1弦 | |
レギュラーチューニング | E | A | D | G | B | E |
半音下げチューニング | E♭ | A♭ | G♭ | D♭ | B♭ | E♭ |
1音下げチューニング | D | G | C | F | A | D |
1音半下げチューニング | D♭ | G♭ | B | E | A♭ | D♭ |
2音下げチューニング | C | F | B♭ | E♭ | G | C |
レギュラーチューニングから全ての弦を同じ音程間隔で音を下げたダウンチューニングを「ローダウン(全弦下げ)チューニング」と呼びます。
ドロップチューニング
6弦 | 5弦 | 4弦 | 3弦 | 2弦 | 1弦 | |
レギュラーチューニング | E | A | D | G | B | E |
ドロップDチューニング | D | A | D | G | B | E |
ドロップC#チューニング | C# | G# | C# | F# | A# | D# |
ドロップCチューニング | C | G | C | F | A | D |
ドロップBチューニング | B | F# | B | E | G# | C# |
ドロップA#チューニング | A# | F | A# | D# | G | C |
ドロップAチューニング | A | E | A | D | F# | B |
レギュラーチューニングから全ての弦を同じ音程間隔で音を下げる「ローダウン(全弦下げ)チューニング」に対し、そこからさらに一番低い弦(6弦ギターなら6弦、7弦ギターなら7弦)のみを1音下げるチューニングを「ドロップチューニング」と呼びます。例えばドロップDチューニングならレギュラーチューニングにした状態から6弦のみ1音下げ、ドロップCチューニングなら全弦1音下げチューニングにした状態から6弦のみさらに1音下げ、といった感じになります。
ダウンチューニングのメリット
ダウンチューニングをすることにはいくつかのメリットがあります。
①「重厚感」や「ダークさ」を表現しやすい
通常よりも音域が低い音域にシフトしたチューニングとすることで、ラウドミュージックらしいヘヴィでダークな質感を表現することができます。ハードコアやメタルコア、デスコア…といったジャンルは3音、4音下げたチューニングをしていることが多いです。こうした低い音域を求める楽曲では7弦、8弦といった多弦ギターを使う場合もありますが、多弦ギターでは音の質感が違うため、あえて6弦ギターでダウンチューニングをする場合もあります。
②指一本でパワーコードがプレイできる
ドロップチューニングを使うことで、パワーコードを指1本で押える事ができるようになります。例えば、レギュラーチューニングでは5-6弦のFパワーコードは上記の画像の左側のように押さえるのに対し、ドロップDチューニングにすると5-6弦のパワーコードが上記の画像の右側のように指1本で簡単に押さえられます。レギュラーチューニングでは難しい、パワーコードを使った速いリフや複雑なフレージングが演奏し易くなるというメリットがあります。
要するにヘヴィ系のリフが非常に弾きやすく、作りやすくなります。そのためハードコアやメタルコア系の曲ではドロップチューニングを使っている例が多く見られます。
③レンジの広いヴォイシングのコードを作り出すことができる
上で紹介したように、人差し指一本でパワーコードが弾けるので、その他の指を高音弦側で使用してレギュラーチューニングでは作れないコードを作り出す事ができます。こうした表現はDjent、モダンメタルでよく見られます。
ダウンチューニングのデメリット
ダウンチューニングをすることにはメリットだけではなく、デメリットもあります。
①弦のテンションが緩くなる
チューニングを下げると弦のテンションが緩くなるので、ダルンダルンのサウンドになりやすいです。半音下げ程度でしたら違和感がないかもしれませんが、それよりも低いチューニングにする場合はタイトで張りのある音を鳴らすことは難しくなります。
②弦やネックに負担がかかる
チューニングを変えると弦の張力が変わるため、弦やネックにかかる力の割合が変わります。たまにチューニングを変える位だったらあまり気にする必要はありませんが、頻繁にチューニングを変えていると弦が切れたりネックに悪影響を及ぼす可能性もあります。
③頻繁にチューニングを変えると音が狂いやすくなる
弦の硬さや伸び具合はチューニングによって変わります。同じ張力で固定されていれば弦の状態(硬さや伸び具合)が変わることはあまりありませんが、頻繁なチューニングの変更は弦の状態が変わってしまう要因となります。そのため、頻繁にチューニングを変えると音が狂いやすくなってしまいます。
④スケールポジションが変わってしまう
ドロップチューニングでは一番低い弦(6弦ギターなら6弦、7弦ギターなら7弦)の音を大きく下げているため、特定のスケールを演奏することが難しくなる場合があります。また、それにより6弦ルート系のコードは押さえにくくなります。
⑤ベースの音と音域が被ることで、ギターの音が埋もれてしまいやすくなる
メタルコアやラウドメタルのように、かなり音を下げたチューニングとする場合、ベースの音と音域が被ってしまいやすくなります。そうなると、低音に関しての音自体はやはりベースの方が太く芯があるため、どうしてもギターの音がかき消され埋もれてしまうことになってしまいます。
ドロップチューニングにおすすめの弦
ここでは各ドロップチューニングに適した弦の選び方やおすすめの弦を紹介していきます。
レギュラーチューニング
6弦 | 5弦 | 4弦 | 3弦 | 2弦 | 1弦 | |
レギュラーチューニング | E | A | D | G | B | E |
まず、基本となるレギュラーチューニングでは「09-42~10-46」あたりの弦を使用します。これ以上太い弦を張ると、テンションが高くなりコード弾きもリードフレーズも弾きにくくなります。
ドロップDチューニング、全弦半音下げチューニング
6弦 | 5弦 | 4弦 | 3弦 | 2弦 | 1弦 | |
ドロップDチューニング | D | A | D | G | B | E |
全弦半音下げチューニング | E♭ | A♭ | D♭ | G♭ | B♭ | E♭ |
ドロップDチューニングくらいであれば、普通の弦でもあまり問題なく弾けるため、レギュラーチューニング同様「09-42~10-46」で問題ないでしょう。基本的にはレギュラーチューニングとし、たまに全弦半音下げチューニングやドロップDチューニングにする、という場合も「09-42」「10-46」また「09-46」といったスタンダードなゲージで問題ありません。常にドロップDチューニングで固定する場合は、 6弦だけ少し太くして48~49 くらいのゲージにしておくと緩さを感じずに弾くことができます。
ドロップDチューニング、全弦半音下げチューニングにおすすめの弦
・D’Addario ダダリオ EXL115 (.11-.49)
・ERNIE BALL アーニーボール Ultra Slinky (.10-.48)
・ghs Guitar Boomers GB10.5 Light+ (.10.5-.48)
・Elixir エリクサー NANOWEB Medium (.11-.49)
・D’Addario ダダリオ NYXL1149 (.11-.49)
ドロップC#チューニング
6弦 | 5弦 | 4弦 | 3弦 | 2弦 | 1弦 | |
ドロップC#チューニング | C# | G# | C# | F# | A# | D# |
このあたりのチューニングからオーソドックスな「10-46」の張力では弦のテンションの緩さが気になってきます。適切なテンションを保つには6弦は50~52 くらいは必要で、「10-52」や「11-50」など1段階太いゲージがお勧めです。
ドロップC#チューニングにおすすめの弦
・D’Addario ダダリオ EXL115BT (.11-.50)
・ERNIE BALL アーニーボール Skinny Top Heavy Bottom (.10-.52)
・ghs Guitar Boomers GBTM True Medium (.11-.50)
・DR EH-11 TITE-FIT (.11-.50)
・D’Addario ダダリオ NYXL1150BT (.11-.50)
・Elixir OPTIWEB Light Heavy (.10-.52)
ドロップCチューニング
6弦 | 5弦 | 4弦 | 3弦 | 2弦 | 1弦 | |
ドロップCチューニング | C | G | C | F | A | D |
ドロップCチューニングもドロップC#チューニング同様、6弦52くらいのゲージが適しています。6弦52は多くのメーカーでヘヴィゲージとして扱っているので、選択肢も広いです。もう少し太くして6弦54~56くらいでもいいです。
ドロップCチューニングにおすすめの弦
・D’Addario ダダリオ EXL116 (.11-.52)
・ERNIE BALL アーニーボール Burly Slinky (.11-.52)
・ghs Guitar Boomers GBH Heavy (.12-.52)
・DR DDT-10/52 Big Heavy (.10-.52)
・Elixir エリクサー NANOWEB Light Heavy (.10-.52)
・D’Addario ダダリオ NYXL1052 (.10-.52)
・ghs Guitar Boomers GB-LOW (.11-.53)
・ERNIE BALL BEEFY SLINKY (.11-.54)
ドロップBチューニング
6弦 | 5弦 | 4弦 | 3弦 | 2弦 | 1弦 | |
ドロップBチューニング | B | F# | B | E | G# | C# |
メタルコアバンドによく使われているチューニングです。ここまで来ると1弦は11~12くらいの太さが欲しくなってきます。6弦は細め緩めなら52でも良いですが、 54 ~56 くらいが適切です。
ドロップBチューニングにおすすめの弦
・D’Addario ダダリオ EXL145 (.12-.54)
・D’Addario ダダリオ NYXL1254 (.12-.54)
・D’Addario ダダリオ NYXL1156 (.11-.56)
・ERNIE BALL アーニーボール Beefy Slinky (.11-.54)
・ERNIE BALL アーニーボール NOT EVEN SLINKY (.12-.56)
・DR DDT-11/54 Extra Heavy (.11-.54)
ドロップA#チューニング
6弦 | 5弦 | 4弦 | 3弦 | 2弦 | 1弦 | |
ドロップA#チューニング | A# | F | A# | D# | G | C |
普通の6弦ギターだとこのあたりがダウンチューニングの限界になります。6弦には56くらいの太さは欲しいところです。場合によっては56でも緩く感じるかも知れませんが、これ以上太くするとピッキングハーモニクスが良い音で鳴らなかったり、音の質感が結構変わってくるので、56くらいの太さにしておく方が良い場合もあります。ここまで弦が太くなると、6弦ギター用のセットでは種類が少なく、7弦ギター用のセットを購入し6弦ギターに張った方が良いかもしれません。
ドロップA#チューニングにおすすめの弦
・D’Addario ダダリオ EXL117 (.11-.56)
・D’Addario ダダリオ NYXL1156 (.11-.56)
・D’Addario NYXL Regular Light NYXL1059 (.10-.59)
・ERNIE BALL アーニーボール Not Even Slinky (.12-.56)
・ghs Big Core Nickel Rockers BCM (.11.5-.56)
・ghs Nickel Rockers 1300 Low Tuned (.11-.58)
・Elixir OPTIWEB 7-Strings Medium (.11-.59)
・Jim Dunlop DHCN1060 Heavy Core Heavy7 (.10-.60)
ドロップAチューニング
6弦 | 5弦 | 4弦 | 3弦 | 2弦 | 1弦 | |
ドロップAチューニング | A | E | A | D | F# | B |
ドロップAチューニングでは、1弦が12~13あたりのゲージが適切です。7弦ギターの音域に達しますから、ドロップA#チューニング同様、7弦ギター用のセットから1弦を外して使うのも良いでしょう。6弦は62~64あたりのゲージがおすすめです。
ドロップA#チューニングにおすすめの弦
・ERNIE BALL アーニーボール Mammoth Slinky (.12-.62)
まとめ
「近代の音楽は低音で進化した」とも言われるくらい重要な要素である低音は、ダウンチューニングを用いることで効果的に取り入れることができます。チューニングによって得意な要素、不得意な要素があるので自分のやりたい音楽を分析して、自分にあったチューニングを取り入れてみましょう!