2011年の発売以来、Kemper Profilerはデジタルアンプのトップクラスの地位を保持し続けています。大規模なファームウェアアップデートを経ても、その座を譲る気配はありません。Kemper Profilerの最大の特徴は、アンプをプロファイルし、そのデータを世界中のプレイヤーと共有できる点です。この機能により、一部のマニアやプロだけでなく、幅広いユーザーに支持されています。Kemper Profilerを手にすれば、無料で世界中のアンプの音を楽しめることが、その人気の秘密です。この記事では、そんなKemper Profilerの基本的な部分から解説していきます。
Kemper Profilerとは?
Kemper Profilerは「プロファイリングアンプ」と呼ばれ、独自のプロファイリング機能を使って実機とそっくりなアンプサウンドを取り込むことができます。本体に数百種類のアンプが内蔵されているほか、「Rig Exchange」というソフトを使えば、世界中のユーザーがプロファイリングしたアンプサウンドをダウンロードできます。
この革新的な技術はデジタルアンプの常識を変え、特にライブを頻繁に行うプロギタリストにとって便利な機能です。2011年の登場以降、ソフトウェアのアップデートを続け、豊富なエフェクトやリキッドプロファイルなどが追加されています。ドイツ製のこの機材は日本ではKORGが輸入代理店となっており、修理やメンテナンスも安心です。
プロファイリングってなに?
Kemper Profilerは、HELIXやAXE-FXなどのモデリングを用いたマルチエフェクターとは異なり、「プロファイリング」という手法でギターアンプの音を再現しています。実際のアンプでテストトーンを鳴らし、その音をマイクで収録して計測することで、アンプの音の特性を正確に取り込むのです。これにより、歪み具合や真空管のコンプレッション感、スピーカーキャビネットの鳴りまで忠実に再現されます。データ化された後は、スピーカーキャビネットを異なるメーカーのものに変更することも可能です。例えば、JC-120をマーシャルのスピーカーで鳴らすこともできるのです。
キャビネットの鳴り方、アンプのコンプレッション感や歪み具合など、細かな調整がすべてのアンプで可能になります。これにより、ユーザーはどのアンプでも自分の好みに合わせて自由にモディファイできるため、音に詳しい人が弄れば、好みの音をいくらでも作り出せるのです。
アンプを持っていなくてもKemper Profilerを買う意味はある?
Kemper Profilerの最大の特徴であるプロファイリング機能は、プロのレコーディングで広く使われています。ヴィンテージアンプのトーンをプロファイルして、ライブではKemper Profilerを使うことも一般的です。しかし、一般のギタリストは、自分でアンプを持っていなかったり、自分でプロファイリングする自信の無い方もいるでしょう。
しかし、プロファイリング環境がなくても、Kemper Profilerには最初から多くのプリセットが入っており、購入者が無料で使用できる「リグマネージャー」というソフトもあります。リグマネージャーは、全世界のKemperユーザーがプロファイリングしたデータを共有できる管理ソフトで、このソフトを使えば世界中のアンプデータを自由に利用することができます。
Kemper Profilerのサウンドはデジタル臭い?
デジタルアンプであるKemper Profilerに、いわゆる「デジタルっぽさ」「デジタル臭さ」があるかという点については、感じ方が人それぞれです。環境や再生するスピーカー、リグデータによっても異なります。筆者はスタジオで実際のアンプ同様に使った際、デジタルっぽさを感じず、むしろ素晴らしいと感心しました。不安な方は、楽器屋で試奏するのが良いでしょう。
Kemper Profilerを使ったプロファイリングの方法は?
Kemper Profilerを使ったプロファイリングとはどのように行うのでしょうか?「スタジオプロファイリング」と「ダイレクトプロファイリング」という2つの方法があります。
スタジオプロファイリング
スタジオプロファイリングは、キャビネットの前にマイクを立て、キャビネットから出た音をマイクで収録してプロファイルする従来の方法です。この方法では、アンプ(プリアンプ+パワーアンプ)+キャビネット+マイキングの特性を再現します。
ダイレクトプロファイリング
ダイレクトプロファイリングは、アンプのSPアウトからの出力をDIで分岐し、片方をキャビネットに、もう片方をKemperに接続する方法です。この方法ではギターアンプのキャビネットを除くパワーアンプまでの部分をプロファイリングし、難しいマイキングをすることなくアンプの挙動そのものをキャプチャーできます。ダイレクトプロファイリングでは、アンプ部のみをプロファイリングして、アンプの反応性を高いクオリティで再現することが意図されています。ダイレクトプロファイリングでもギターキャビネットを繋げる必要がありますが、これは真空管アンプを保護し、アンプとキャビネットの電気的な相互作用を再現するためです。
スタジオプロファイリングとダイレクトプロファイリングの違いは?
スタジオプロファイリングとダイレクトプロファイリングにはどのような違いがあるのでしょうか?
①ダイレクトプロファイリングはマイキングが不要
ダイレクトプロファイリングはマイクを立てて音を録る必要はありません。スタジオプロファイリングではマイクの位置や種類、マイクプリ、ミキサーなどが音に影響を及ぼすため、良いリグを作る難易度は高いです。一方、ダイレクトプロファイリングではそういったクオリティに影響する要素を減らせますが、良い音を録るためには高品質なDIを使う必要があります。
②ダイレクトプロファイリングは上手くプロファイリングできない場合がある
ダイレクトプロファイリングの場合、キャビネットの相性が悪いと、変な音になったりして上手くいかないことがあるようです。プロファイリングが失敗した場合の特徴としては、ボワボワした音になったりします。
③スタジオプロファイリングとダイレクトプロファイリングではサウンドが違う
スタジオプロファイリングとダイレクトプロファイリングではサウンドにも差があります。
スタジオプロファイリングのサウンド
スタジオプロファイリングでは、音に芯が通っており、中心にしっかりとまとまった感じがあります。音像が中心から動かず、安定している印象です。また、音に独特の太さや癖があり、これがライン録音では良い結果を生むことがあります。
ダイレクトプロファイリングのサウンド
ダイレクトプロファイリングでは、音の輪郭と中心に空間があり、音像に動きがあります。これはキャビネットから出力する場合に自然に感じられます。また、スタジオプロファイリング特有の太さや癖が無くなり、よりフラットな音質になります。
プロファイリングにも欠点はある
プロファイリングの欠点は、アンプの「モデリング」とは異なり、プロファイリング時の挙動しか再現できないことです。KEMPERにはゲインやEQが搭載されていますが、これは一般的なチューブアンプの挙動を基にしており、実機の挙動を完全に再現するものではありません。そのため、セッティングを大きく変更したい場合は、再度プロファイリングを行う必要があります。多くのギタリストは、同じアンプの異なるセッティングをプロファイリングして使い分けています。ちなみに、こうした欠点はリキッドプロファイルの登場により改善されています。
KemperとAxe-Fxの違いは?
Axe-FxとKemperは同じ価格帯でよく比較されますが、全く異なるアプローチの機材です。Axe-Fxはモデリング技術を用いてソフトウェア的にサウンドを生成するのに対し、Kemperは実際のアンプの特性をコピーするプロファイリング技術を基にしています。そのため、Axe-Fxは内蔵モデルのみ使用できますが、Kemperはどんなアンプでもプロファイリング可能です。
どちらも良い音を出せますが、Axe-Fxは細かく音作りでき、Kemperは自身のアンプを再現するのに適しています。Axe-Fxの方が設定項目が多く、細かい設定が可能な分、使いこなすには慣れが必要です。
ユーザーは細かい設定を全て行う必要はなく、プリセットを活用して簡単に良い音を作ることもできます。Axe-Fxは特に音作りに拘るマニア向けで、設定を深く楽しみたいギタリストにとって魅力的です。
Axe-Fxについて詳しく知りたい方は↓の記事がおすすめです。
Kemper Profilerのメリット
Kemper Profilerのメリットについて解説していきます。
①大量のアンプサウンドを持ち歩くことができる
現在、KemperのRig Exchangeには約26,000のRigが公開されています(2024年7月時点)。これは、さまざまなアンプやエフェクトプロファイルを含む大規模なコレクションで、ユーザーは無料でアクセスして利用することができます。これらのサウンドは、50年代のヴィンテージアンプから最新のハイゲインアンプまで多種多様で、例えば一曲の中でクリーンはブラックフェイス期のTwin Reverb、歪みは60年代のPlexiマーシャルを使うといったこともKemper一台で可能です。
また、プロのギタリストが実際に現場で使っている高品質な有料Rigもあり、それらも利用することでお気に入りのサウンドが確実に見つかるでしょう。
②サウンドの再現性が高い
Kemperのサウンド再現性は非常に高く、YouTubeにある実機アンプとの聴き比べ動画でもその驚異的な再現性が確認できます。歪み感、ピッキングニュアンス、ボリュームへの追従性など、どれを取ってもリアル感が際立っています。このため、プロフェッショナルなギタリストも使用しています。
③内臓エフェクターも高品質
かつてはエフェクターが貧弱と評されていましたが、実際に使ってみると、歪みやモジュレーション、空間系エフェクトが充実しており、Kemper1台で完結させたいユーザーにとって、これは魅力的です。特殊な音作りにはお気に入りのエフェクターを組み合わせるのがよいですが、基本的なエフェクトの品質は非常に高く、リバーブ、ディレイ、コーラスなどは高級エフェクターに匹敵します。さらに、ビットシェーバー、トランスフォーズ、ピッチシフトディレイなどのマニアックなエフェクトも多く収録されています。
④エフェクトのノリが良い
内蔵されているエフェクターはかなりハッキリとした抜けの良い音になっています。存在感があり、音像も綺麗です。
⑤実機アンプのような直感的な操作ができる
Kemperは他のメーカーに比べて実機のアンプのようなツマミが多く、実際のアンプやエフェクターの信号の流れに沿った配置になっているため、直感的に操作できます。Kemperもデジタル機器なので多少の操作は必要ですが、他のメーカーに比べてその手間は少ないです。
⑥ライブハウスの環境に左右されず、大体同じ音が出せる
ヘッドアンプだけ持っていき、ライブハウスのキャビネットを借りて演奏をする場合、キャビネットが違えば音は毎回変わってしまいますが、Kemperを使用してライン出力をすればメインスピーカーからの音はほぼ一定に保たれます。会場のスピーカーや音響による微妙な変化はありますが、ライブハウスのキャビネットに左右されずに音作りが可能です。
Kemper Profilerのデメリット
次にKemper Profilerのデメリットを見ていきましょう。
①理想のサウンドに辿り着くまで時間がかかる
2024年時点で約26,000以上のRigが公開されているため、良い音を見つけるのが大変です。特に定番のアンプを探すと多くの選択肢が出てきて、1つずつ試すと時間がかかります。また、有料のRigは高品質ですが、多くのアンプが収録されているため、特定のアンプを使いたい場合には選びにくいこともあります。
②設定が複雑
プロ用機材なので仕方ない部分もありますが、設定が複雑でわかりにくいです。ボタン操作やページ移動が直感的でなく、そういった点は低価格帯の機材の方がわかりやすいことも多いです。Rig Managerを使えばパラメータやエフェクトを簡単に管理できますが、人によっては敷居が高く感じるかもしれません。LCDディスプレイは見にくく、本体だけで細かい音作りは難しいと感じました。
③実機アンプのような音の奥行きや立体感がない
Kemperのサウンドは実機アンプに比べて立体感が薄れ、音が平面的に感じられます。真空管アンプは立体的で丸い音ですが、Kemperはざらっとした平面的な音、といった印象です。シャープでアグレッシブな音になりやすいため、メタルコアやデスコアにはむしろ適しているといえます。ライブでは音圧の違いも感じられ、真空管アンプの方が音圧は高いです。
④サウンドにコンプ感が感じられる
Kemperのサウンドは、コンプレッションが強く効いており、サウンドがまとまりやすく均一な質感があります。実機アンプに比べてすっきりした印象のある音ですが、好みが分かれるかもしれません。
⑤Axe-Fxほどの細かい設定はできない
Kemperは直感的に操作しやすい一方で、Axe-Fxのように細かい設定ができません。たとえば、ステレオで異なるアンプやエフェクトを使うといった機能はありません。緻密な音作りをしたい人にはAxe-Fxが向いているかもしれませんが、あまり自由度が高いと逆に設定が難しかったりもします。
⑥自宅で作った音をライブハウスで鳴らしてみると、イメージと違うことも
自宅などでライン出力で作り込んだ音をライブハウスのスピーカーから大音量で出すと、少し音の印象が違って感じられることがあります。Kemperの高品質なサウンドであっても、環境によって自分で音を調整していく能力は求められます。
KEMPERにはどんな種類があるの?
現在、Kemperにはいくつかのモデルが発売されています。以下は主なラインナップです。
Kemper Profiler Head
Kemper Profiler Headは、アンプヘッド型のKemper Profilerです。豊富な入出力オプション(XLR、TRS、MIDIなど)を備え、多彩なエフェクトが内蔵されています。キャビネットの上に置いてのライブや、スタジオでも使用でき、MIDI対応で柔軟なコントロールが可能です。Kemper Profilerの最もスタンダードなモデルです。
Kemper Profiler Stage
Kemper Profiler Stageは、ペダルボード型のモデルです。持ち運びやすく、ライブ、リハーサル、スタジオでの使用に最適です。フットスイッチで直感的にコントロールできますが、パワーアンプは内蔵されていませんので、外部のパワーアンプやスピーカーキャビネットと組み合わせて使用する設計になっています。
Kemper Profiler Player
Kemper Profiler Rackはラックマウント型のモデルで、機能はKemper Profiler Headとほぼ同じです。Kemper Profiler Headと同様に豊富な入出力オプションと多彩なエフェクトを内蔵し、MIDI対応で柔軟なコントロールが可能です。主な違いは、ラックマウント型であるため、ラックシステムに組み込みやすく、スタジオやツアーでの使用に特に適していることです。「Kemperを使いたいけど大きい機材は持ち運びたくない」という人には特におすすめです。
Kemper Profiler Rack
Kemper Profiler Rackはラックマウント型のモデルで、機能はKemper Profiler Headとほぼ同じです。Kemper Profiler Headと同様に豊富な入出力オプションと多彩なエフェクトを内蔵し、MIDI対応で柔軟なコントロールが可能です。主な違いは、ラックマウント型であるため、ラックシステムに組み込みやすく、スタジオやツアーでの使用に特に適していることです。「Kemperを使いたいけど大きい機材は持ち運びたくない」という人には特におすすめです。
Kemper PowerHead
Kemper Profiler PowerHeadはProfiler Headに600WクラスDパワーアンプを内蔵したモデルで、パワーアンプ内蔵のため、スピーカーキャビネットに直接接続可能となっています。
Kemper Profiler PowerRack
Kemper Profiler Rackに600WクラスDパワーアンプを内蔵したモデルです。こちらもパワーアンプを内蔵しているため、直接スピーカーキャビネットに接続してライブで使用可能となっています。外部パワーアンプを持ち運ぶ必要がなく、よりシンプルなセットアップが可能です。
Kemper Profiler Remoteは必要?
KEMPER専用のコントローラー「Kemper Profiler Remote」は、LANケーブル1本で本体と接続でき、アダプターは不要です。シンプルで直感的に使え、精度の高いチューナーやTAPテンポ、LOOPERが付いており、外部ペダルも4つ接続可能です。BANKの切り替えやプリセットの切り替えスイッチ、エフェクトのON/OFFスイッチも装備されています。スイッチ操作自体はMIDIコントローラーでも可能ですが、やはり専用のフットスイッチが使いやすく、ケンパーを購入するなら一緒に買うことをお勧めします。ただ、コントローラーがコンパクトなため、スイッチの間隔が狭く踏み間違えが起こることがあります。基本的に操作は直感的に行えるようになってはいますが、細かい設定をする場合にはマニュアルを読まないと難しいです。
Kemper Kabinetは必要?
Kemper KABINETは、Kemperと組み合わせて使用することを前提に設計されており、その音質は非常に優れています。KABINETは、Kemperのプロファイリング技術を活かし、リアルなスピーカーシミュレーションを提供します。Kemperと容易に接続できるため、設定や調整がスムーズに行えます。直感的な操作性と設置の容易さが、使用者から高く評価されています。持ち運ぶことができる環境にある場合は、安定した音質を求めるユーザーにとって、非常に信頼できる選択肢となるでしょう。